「彼岸花」「お早う」

彼岸花」、佐々木初を演じる浪花千栄子渋谷天外の最初の妻。その佐々木初が入院するのは聖路加国際病院

「お早う」、うんこ漏らしにはじまりうんこ漏らしに終わるスカトロジカルな作品。額を突かれると「ぶっ」とおならがでるように訓練する子供たちというのは俳優の比喩なんだろうなあ。気張って実を出してしまう(=本当の感情)というのは下手な俳優であり、突かれると上手に「ぶっ」という音だけ出せるのが上手な俳優。子供たちはうまくおならがでるように軽石をナイフで削って食べているが、これは昔から云われていたことで、火山の噴火でできた軽石にはガスが含まれているからということらしい。落語に「軽石屁」というのもある。駕籠の人足に軽石を入れた酒を飲ませ、自分を騙して一人で駕籠に乗っていってしまった友達に「当て擦り」をする話。サゲは「当て擦り? それで軽石使こたんか」。

アメリカ人観客は下ネタの連続にやや引いていたが、緊張と緩和の交替は小津の終生の主題であり(男たちが家に帰り着物に着替えてくつろぐシーンの多さ、佐分利信の渋面と柔和な笑顔の、スイッチの切り替わりのような素早さ)、それが肛門期性欲に由来するものだということをあからさまに露呈しているのは面白かった。テレビを買ってくれと騒ぐが、お喋りがすぎると父親の笠智衆に言われて、抗議のために家だけでなく学校でも一切口をきかなくなってしまう小学生と中学生の兄弟、というのはいささか非現実的すぎ、しかも彼らの沈黙には大人たち(とりわけ女性たち)のそれほど意味深なものであるとは思われず、ただひたすら欲望をコントロールすることの必死さが伝わってくる。

斉藤一郎、斉藤高順ではなく、この作品と「小早川家の秋」は黛敏郎が音楽を担当。モーツァルトをあからさまにパクり、しかもそのパクりの手口をひけらかしているかのような最初に流れる音楽を聞いて、嫌みな野郎だと思う。