「出来ごころ」「秋日和」「キル・ビル」

「出来ごころ」坂元武が演じる喜八ものの第一作。工場を首になりどこにも行くところがなくなって途方に暮れている、身よりのない娘春江に声をかけたのがきっかけで惚れてしまい、しかし彼女は弟分の次郎(大日方伝)が好きだということがわかり、二人の仲を取り持つはめになる…これって「寅さん」シリーズの原型なんだな。春江を演じる伏見信子(伏見延江)は細面で目が大きく、表情が豊かな美人。

年齢の差のことを言われた喜八は「長右衛門の例もあらうな」と言うが、これは三十八歳の帯屋長右衛門と十四歳歳の信濃屋お半の恋を描く、桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)への言及。

秋日和」死んだ友人の娘三輪アヤ子(司葉子)の婿探しに精を出す中年男三人組間宮宗一(佐分利信)・田口秀三(中村伸郎)・平山精一郎(北竜二)。中村伸郎は人はいいがいい加減なところのある男という役どころなのだが、冒頭の七回忌の場面、神経質そうに顔の筋肉をぴくぴくさせている。もちろん役作りとは関係なく、ただ緊張しているのだ。たしかに、小津の作品で中村が演じる役柄としてはいちばん大きなものではあるが、だからといってここまで緊張するものか。役柄が役柄だけに本来の神経質な性格とのギャップが余計に目立つ。
老年のひょうひょうとした中村を舞台で見ている人間には信じられないような生真面目さ、神経質さだが、俳優は役柄によってもともとの性格までも変貌させられてしまうのだろう。

キル・ビル」は戦前のチャンバラ映画へのオマージュでもあるのだな。途中立ち回りが白黒になるのはそれゆえだろう。ユマ・サーマンが乗る飛行機およびその内装の明らかに作り物とわかるチープさや、バンドの演奏に合わせて踊る若者たちのショット(一カ所にかたまって踊っているので、その周囲の空間が妙に空いていて格好わるい)などは60年代の日本映画のパロディだし。
それにしても中国人に殺陣の指導をやらせるのはどうか。立ち回りのシーンは全く美しくない。